8月25日(火) 晴れのち夕方に暴風雨  長沙  黄金城大酒店・双人房

 朝食後、宿の延長。なぜかお釣りをくれない。不思議そうに領収書を見つめていると、デポジットだと言う。それなら昨日払った。普通、どこでも一泊目にしか取らないぞ。それなのに、ここは毎日延泊するたびに取るつもりなんだろうか? それに、昨日払ったデポジットと今日のお釣りとでは、ぜんぜん値段が違う。今日のお釣りの方が安いぞ。いいの? この宿、服務員さんがみんな親切でなかなか居心地がいいんだけど、何かヘンなシステムだなぁ。
 長沙では初めての路線バスに乗って、岳麓山へ。途中渡った湘江は思っていたよりずっと広い川だ。それに中洲が島みたいに大きくて、建物もいっぱい建っていたのには驚いた。しっかし、最初の12路といい5路といい、久々に木の椅子の大ボロバスで、飛ばしまくり。床の振動で足がビリビリしたよ。
 まずは麓の岳麓書院へ。昔の学校。赤壁行きがダメになって代わりに仕方なく来たわりには、なかなかいい風景がたくさんあって、意外にフィルムを消費してしまう。正統派の中国らしい観光地の風景は、なんか久しぶりだなー。ここを、中国時代劇ふうの服を着ている人たちがそぞろ歩いているのを想像すると、なかなかにステキだ。
 一巡りした後、裏門から出て山登りが始まった。本当に暑い。あまりの暑さに、普段はあまり水分を欲しがらないさすがのあたしも冷たい水が欲しくなって、買ってしまう。凍っていたのに、ほんの少し先の愛晩亭に着いたときには、もう全部溶けていた。
 山登りの道は険しい。それに暑い。そういえば昨日、天気予報で今日の最高気温が39度って言ってたもんなぁ。あんまりに汗が流れるからか、600ccの水を飲み干してもぜんぜんトイレに行きたくならない。
 途中、中国の革命のエライさんのお墓をたくさん通り過ぎる。暑すぎてすぐにバテて、何度も休憩する。湖南省最古の仏教寺院だという麓山寺を過ぎ、分かれ道のところで休憩していたおばさんと少し喋って、また登る。そして、やっと山頂に着いた。
 展望台の方に歩いていったら、何か怖い感じのする基地みたいな建物があった。異様な動きをするレーダーが、更に気持ち悪くて怖い。今にもこっちを向いてビームが飛んできそうだ……。とか思ってたら、やっぱり軍関係の施設で、撮影禁止と書いてあった。そんなモン、入山料を取るような観光地の山に建てるなよ〜。
 おっ、売店発見。アイスキャンデーを買う。食べる。おいしいっ!!! こんなおいしいもの今までに食べたことがない、と二人で言い切ってしまう。展望台からの眺めも最高で、二人で「幸せだーっ」を連発する。それほど、ここまで登ってくるのはつらかったということだ。でも、頑張ってよかった、と心からそう思える。すごい達成感。たった3元、日本円にしたら54円のアイスキャンデーが至上の美味、それを食べていることが至上の幸せだと思えるほど。でも、こんなささやかなことに幸せを感じられるって、大切なことだよね。

岳麓山頂からの眺め


 登りとは違う車道を通って山を下りながら、他の見所にも寄る。
 雲麓宮は道教の寺院で、そこでお賽銭をしたら、係りのおっちゃんがお線香を数本ずつくれた。見かけは花火みたい、ピンクに塗られた竹の細い棒の半分くらいに火薬がついてて。それに火をつけると、おじさんが鈴(りん)を叩いてくれたから、慌てて正座して拝む。上の売店に行くとお守りを売っていて、せっかくだから買うことにした。ここのところ、乗り物のハプニングが続いてたし、「頑張って無事に日本に帰るぞっ」という気合を込めて。
 またずーっと下って、万景園へ向かう。その途中、チャチなハリボテっぽい中国武将の等身大人形が立つ、ヘンな門を見つけた。何かな、と思って門を入ってみると、他にもたくさんの等身大人形がある。説明の札を読むと、水滸伝の名場面の再現だった。本当にチャチで雑な作りの人形たちなんだけど、水滸伝好きだし、面白いから、全部写真に撮った。ここでも予定外のフィルム消費だった。

水滸伝人形


 万景園は盆栽がたくさんあるだけの所だったけど、いくつかあったミニチュアの山水はすごくよくできていて、可愛い。気に入った。ここで出会ったおばさんが話しかけてきたから少しお喋りしてから、山を下った。
 帰りのバスは火車站行きなら何でもいいと思って乗ったんだけど、すごく遠回りする路線なんだと、乗ってる途中で気が付いた。お陰で、とても時間がかかった。そのうち雷の音が聞こえ始め、ポツポツと雨が降ってきた。あんなに暑くていい天気だったのに。バスから降りたときもまだポツポツで、大急ぎで哈蜜瓜を買い込んでから、宿に戻った。そして部屋に着いた直後、急にものすごい暴風雨になった。台風上陸、みたいな。あたしら、危機一髪。
 二人で窓に張り付き、外を眺める。宿の外壁に吊ってある垂れ幕が、うねって窓に打ち付けてくる。向かいの建物の看板がぶっ壊れて飛んでいって、側面の方でも何か壊れて飛んでいった。それを見た瞬間、二人ともベッドで笑い転げる。

ぶっ飛び看板


 眼下の道はみるみるうちに川みたいになって、車がタイヤを半分水に浸からせて走っている。この状況下で自転車も走るし、歩く人もいる。あんまりすごいんで、写真を撮った。

洪水の道路


 この光景を眺めながら、毎日のようにやっていた洪水のニュースを思い出した。街がこんな感じ、またはもっとひどいことになっていた。大変なんだろうな。洪水被害のための真っ赤な募金箱、ときどき見かけたし。ニュースでは、軍のエライさんとかが、100元札を何枚も、それも、これみよがしに扇みたいに広げて募金箱に入れるところが映っていた。あたしも10元くらいなら募金しようと思ってたけど、あれ見て、できなくなったよ……。それに、ニュースの内容は、人民がどれほど困っているかということよりも、「人民解放軍が大洪水と勇敢に戦う図」というのが多くて、いかに軍がリッパでエライのかを宣伝してるだけみたいに見えたよなぁ……。
 ともあれ、この状態じゃ、とても外には出られない。まあ、今日は疲れてて夕食をちゃんと食べる気力がなかったからいいけど、明日には水、引くかなぁ?
 今日の汗で、さすがにズボンがベタベタだ。洗濯しよう。明日までに乾くといいんだけど。


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