8月24日(月) 晴れ  長沙  黄金城大酒店・双人房

 朝4時20分頃、列車員に起こされて、切符とベッド札の交換をする。そして、5時30分頃に長沙に到着。まだ暗いのに、駅を出る前からタクシーや宿の客引きが現れる。なんでこの人たちが改札よりも奥まで入って来られるのかナゾだ。彼らを振り切って外に出ると、更にたくさんの客引きが押し寄せてくる。みんなこんな未明から、すごいパワーだ。
 客引きを振り切って、目的の宿を探して歩く。暗いし初めて来る町だから、なかなか見つからない。『歩き方』には駅の近くだって書いてあるのに……。
 客引きのおばさんがついてくる。「ちょっと見てみてよ」ってしつこいし、目的の宿も見つからないから、おばさんの持っている部屋の値段表にちらっと目を向ける。すると、こういう人のって大抵、外国人が泊まれない「招待所」のものなんだけど、英語で買いてあって、部屋代も米ドル表記。高級ホテルのものだ。でも、さすがに高い。「高いよ」って言って歩み去ろうとすると、2人100元にする、と言う。その値段につられて、それにこんな時間だから早く宿を決めて寝直したいから、ついて行ってみることにした。
 でも、おばちゃんがつれて行ってくれたのは、招待所。英語の値段表を見せたんだからあたしらが外国人なのは分かってるんだろうし、それでも尚連れてくるんだから招待所でも泊まれるのかな、って思って、部屋を見せてもらう。
 案内されたのは4階の部屋で、トイレ、シャワー、空調、テレビが揃っていて、あたしらには申し分のない部屋だ。駅からも近いし、ここに泊まることにした。
 荷物を降ろして、あたしだけ一階に降りて宿泊登録しに行く。当然身分証明書を出さなければいけないんだけど、あたしの場合、当然それはパスポート。すると、服務台の人は、「あなたは日本人だから泊まれないよ」と言った。あたしらを連れてきたおばさんは「いいじゃないか」と言ってるけど、服務台の人は
「ダメ」と言い続ける。やっぱりね。あたしは「わかった」と言って、荷物と理恵ちゃんを迎えに部屋に戻った。おばさんは追ってくる。そして、服務台の人がダメだって言ってるのにどうしてもあたしらをここに泊まらせたいらしく、いろいろと言ってくる。「でも、ここは外国人は泊まられへんやろ」とあたしが言うと、おばさん、「じゃあ、どこに行くの? 連れていってあげる」と言う。そこで元々の目的の宿を言うと、「分かった」と言って、再びあたしらの案内を始めた。
 が、駅の近くのはずなのに、どんどん離れて行く。おかしい。また違う宿に連れて行く気だな。そう思ったけど、とりあえず、この一軒だけは付き合ってみることにした。着いた場所は「法官之家」と書かれた、やっぱり招待所。一応部屋を見せてもらうと、設備はさっきと全く同じで、少しキレイだ。でも招待所だし……悩んだ。ハッキリ言って、この宿に来るまでに、すごく疲れてしまっていた。また宿を探して歩くのはしんどい、というのが本音。理恵ちゃんもここでいいって言うし、荷物を置いて、宿泊登録をしに一階に下りた。
 招待所でも、稀に外国人が泊まれる場所もある。そういうところは、ちゃんと外国人用の用紙を置いている。ここもそうなのかもしれないと思ったけど、出された用紙は中国人用だった。ここで、まず気持ちが引っかかった。そして、パスポートを出して身分証明書番号を記入している途中で、ペンを止めた。何か嫌な感じがしたのだ。何がどう、というわけじゃない。でも、そう思い始めると、いろんなことが悪い方向に感じられてきた。
 パスポートを見て外国人だと分かっても、平気でこの宿があたしらを泊めようとしていること(バレたら処罰モノでしょ)。性懲りもなく、また招待所に連れてきたおばさん。それに、そもそもおばさんが最初に見せた値段表のホテルに案内しなかったこと。最初に案内された宿からあたしらとおばさんが出発するときに、後ろから呼び止めるような声があったこと。
 ……いろいろ考えてると、「このおばさんとこの服務員のおじさんはグルかも……」とか考えてしまって。しんどいけど、どうしてもこの宿に泊まるのは、不安でしょうがない。何の理屈がなくても、こういう勘は信じたほうがいい。そう思ってそのことを理恵ちゃんに話し、服務員のおじさんに、「やっぱり泊まるのやめる。ごめんね」と言ったら、おばさんが「宿泊費まけてあげる」と言ってくる。なんであんたにそんな権利があるの? それに、ここをやめるのは宿代の問題じゃない。あたしらはおばさんを無視して部屋に荷物を取りに行き、もう一度服務員のおじさんに謝った。おじさんは優しい笑顔で「いいよ」って言った。もしかしたら、おじさんは本当に親切で、未明に見知らぬ土地に着いた外国人のあたしらに同情して泊めてあげようと思ったのかもしれない。そういう例があるのも確かだし。でも……あのとき感じたそこはかとない嫌な感じ……これはやっぱり無視できない。そして、あたしらは案内おばさんにも「ごめんね、ありがとう、もういいから」と言って、駅に向かって歩き始めた。
 が、おばさんは追ってくる。「そっちに宿はないよ」とか言って。ウソだ。あたしは見たぞ。ここに来る途中、駅の近くに第二候補だった宿があったのを。だから無視。それでもおばさん、前に回りこんできて、「ここに案内する」と言って、最初に見せた部屋の値段表を見せる。今更なんなんだ。「いらない」と言って歩き続ける。「いいホテルだよ」と追いすがってくるおばさん。そんなん分かってる。でも、もうあんたは信用しない。もう、あんたに振り回されるのはたくさんだ。クタクタなんだから。まあ、最初に違う宿に連れて行かれたときにうんたについて行くのをやめなかったあたしがバカだったよ。と、心の中で悪態をつきつつ、おばさんを無視して歩き続けた。それでもおばさんは長い間ついてきて、「どこに行くの?」を連発してたけど、やがて離れて、あたしらのずつと後ろの方を歩きだした。
 第二候補だった宿に着き、もうクタクタだから少し高いけどバス・トイレ付きの2人部屋を頼んだ。宿泊登録しているのを案内おばさんが玄関の外からこっそり覗いて、そして去って行った。


 もう本当にクタクタですぐに寝たかったんだけど、まず部屋に紐を張って、一昨日にまだ乾いてないままだった洗濯物を干す。それから、マジックテープが外れかけてた貴重品入れの腹巻の修理。ああ、もう7時回ってるよ……。とりあえず、それから10時まで寝た。
 洗顔と髪の編み直しをしてから、宿を出発。まずは両替をしなくちゃいけない。今回の宿、名前はハデでいかにも高級ホテルっぽいけど、星なし。両替サービスはない。道端で地図を買って銀行に行き、両替を済ませてから駅に上海へ戻るための列車の切符を買いに行った。
 人民がドワーーーッと並んでいる普通の切符売り場に来るのは、今回の旅では初めてだ。ダフ屋さんもたくさんいる。ということは、切符の入手は困難かもしれない。そうじゃないと、ダフ屋さんがこんなにいるわけがない。もう、外国人料金はなくなったんだし。……と思ったら、本当にそのとおり。三日後の切符だっていうのに、「没有」と言われてしまった。コンピュータで確認もせずに。いつのだったらあるのか尋ねたんだけど、もう全く取り合ってくれない。ダメだ、CITSへ行ってみよう。
 ところがここのCITS、普通のとは様子が違う。飛行機の切符売り場の支店みたいな感じがする。それでも一応列車の切符が欲しいということを告げると、「駅の外国人窓口で自分で買って」と言われてしまった。けど、外国人窓口なんてなかった。そう言うと、周りの人に聞いて、6番だと教えてくれた。それと同時に、飛行機を勧められた。列車の軟臥に乗るなら、あまり値段変わらないよ、と。確かに、少し高いけど所要時間が全然違うし、それもいいかもしれない。とりあえずもう一度駅へ行ってみて、切符が買えなかったら飛行機の切符を買いにここに戻ってくることを告げて、駅へ戻った。
 もう窓口の午前の部には間に合わないから、午後の部の時間まで近くの百貨店で時間を潰す。そして午後2時半より少し前、窓口へ戻ってみた。6番窓口は外国人用というよりは軍人と華僑用。窓口が開くのを待っている間、声をかけてきたダフ屋さんたちにも希望を言ってみたけど、みんな明日のしか持ってないみたい。で、窓口の方は、乗車当日の朝においで、という返事。ちょっと〜、それは怖い。これが旅程の半ばとかならまだいいけど、帰国のために上海に戻るんだから、そんな危険な賭けはできない。当日の朝に来て、それで切符がなかったら、冗談じゃない。
 というわけで、飛行機に乗ることにして、再びCITSへ行った。飛行機の切符を買うと言うと、「あの値段は2割引の切符で、絶対にそれが買えるわけじゃないよ」と言う。定価だととても高い。でも帰国がかかってるんだから、そんなこと言ってられない。承知すると、「今、停電でコンピュータが動かないから、少し待ってて」と言われた。「いつまで待ったらいい?」と聞くと、少し悩んだ末、どこかへ電話した。その電話をあたしに渡す。受け取って電話に出てみると、日本語だった。発音がぎこちないから、日本語のできる中国人だ。その人はあたしの希望を確認した後、「2割引のはなくても1.5割引のはあると思うよ。今から停電していない事務所に連絡して確かめるから、ちょっと待ってて」と言った。それから暫くして電話がかかってきて、2割引きの切符が取れたことを知らせてくれた。切符はその場で発券してもらえ、ホッとして宿に戻った。


 さて、次は赤壁行きだ。長距離バスで行けると思い、服務台で尋ねてみる。すると、「それってどこ?」という始末。結局ロビーの旅行社に相談することになった。けど、洪水でムリ、と言われた。あー、やっぱりなぁ……。今度こそは、と意気込んでたのになぁ。長砂に来た意味、ない……。じゃあ、せめてここの何かの現地ツアーにでも参加しようかと思ったけど、日数が足りないものばっかりだった。仕方ない。残る二日間は市内の観光地に行こう。
 百貨店で買い物した後、夕食のために食堂を探す。ウロウロしてたくさんある中から、入りやすそうな場所を選んで入る。すると、このお店はとても親切で、料理もおいしくて、値段もお手ごろだった。あたしらが日本人だとわかると更に親切になり、注文していないおつまみを出してくれた。それが辛くてあまり食べられないことを見てとると、今度はピーナッツを持ってきてくれた。最初は勝手に勘定に入れられていないかと心配したんだけど、入ってなかった。本当にサービスだったんだ。感激して、「また明日も来るからねー」と言って帰った。


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